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『摂氏零度の少女』 [本]

『摂氏零度の少女』を読んだ。

しびれる。それも服毒的な意味で。


摂氏零度の少女

摂氏零度の少女

  • 作者: 新堂 冬樹
  • 出版社/メーカー: 幻冬舎
  • 発売日: 2007/11
  • メディア: 単行本


 

滋賀の大津でパスポートを受け取りがてら本屋に寄ると、一際目を引いたこの表紙。以前渋谷でも見つけ、横浜でも見つけ、とやはり売れているらしい。しかし、今まで“ジャケ買い”した本は数多あるが、ひとつとしてハズレだったことはない気がする。どうやらジャケットが良い本は、面白いようだ。

ちなみに滋賀では、『摂氏零度の少女』の少し手前に『恋空』が大量に積んであった。

スイーツ(笑)。

 

 

 

手にとって立ち読みをしていると、あっという間に引き込まれる。主人公の少女の切れ味の鋭さに、一気にやられてしまった。なんというか、文章が非常に凛としているのだ。

物語は、虫マニアであり動物マニアであり毒マニアである少女、涼子が、毒を使って母親を殺そうとするという話。と言っても、展開や動機はそんな単純なものではない。トラウマだったり、「生きることと死ぬことはどっちが幸せ?」などという複雑な問題が提起されながら、その中で自分の正しさを頑なに守ろうとする彼女の「不安」や「揺れ」が絶妙なバランスで描かれているのである。優等生で医学部志望の彼女と、やり手編集マンである母親、祥子。ダメ夫の正一に、普通過ぎる姉、京子。まるで綱渡りのように進んでいくストーリーは、読んでいるこっちが服毒したかのような気持ち悪さに苛まれるくらいである。

 

冒頭からヒキガエル、アオズムカデ、ハラビロカマキリ、ライオン、と動物名が踊ったかと思えば、それを追うように、タリウム、ドクニンジン、メチルコニイン、トリカブトと毒薬が頻出する。そしてあっけなく、しかし生々しく殺される動物たちが描かれ、凛とした彼女の哲学が語られるわけだ。これはとまらなくなる。

特に、どんどん弱っていく母親の、毒による蝕まれ方の表現は秀逸。出版社の編集マンという仕事柄、体が蝕まれることに対して彼女が保っている盲目さが、涼子の毒の前では仇となり、髪は抜けるは口内炎だらけになるは、嘔吐に頭痛に視力低下、これでもかというくらいに漸落する。読んでいて非常にしんどいし、いつ死んでしまうのか、次はいつ嘔吐するのか、とある種の期待めいたドキドキ感すら現れてくる。これはひとえに文章の力だろう。淡々と語られれば語られるほど、病状はひどく映る。

 

 

 

言っていることは終始一貫して、極めて単純明快。松本人志と同じような「超原理主義」的考えが、涼子の考え方の根本である。「人のために泣くのなら、一生泣き続けろ。」というものだ。

人が死んだときに泣くやつは、結局泣いてる自分に酔っているだけで、10年後も同じように涙を流してその人の死を嘆けるのか?泣けないのなら、最初から涙など流すべきではない。相手のためを思うのなら、涙など流さない方が確実に正しい選択なのだ。

というのが彼女の論拠。

 

これを正しいと見るか、「そうは言ってもさ…!」と見るか、によって読者の主義主張まで量られている気がしてしまう。油断ならないな、この本。

 

 

 

 

とにかく、ちょっと無理がある展開もあるけれども、提起されている問題や毒物によって人が死に向かう描写(しかもグロいというわけではなくむしろキレイ)はすこぶるハイレベルなものなので、暇な人はぜひ読みましょう。

焼酎を飲むのが怖くなります。自分、飲まないけど。


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佳代

私も最近この本を読みました。立ち読みから始まったのですが、これは家でじっくり読まなければ、と思い、買いました。
死というものについてゆっくりと考えみる機会を与えてくれた本です。180度とまではいかないものの、105度ほど私の考え方も変わった気がします。(もともと影響は受けやすい質なのですが)

by 佳代 (2008-03-11 22:06) 

nasujirou

>>佳代さん

文章のリズムに始まって、ページの余白まで、なんだかキレイに見えてくるからこの本は不思議ですよね。「死」ってのはその真逆のすごくグロテスクなものなだけに、両極端が詰まっている気がします。主人公にも、この本自体にも。

植物人間、安楽死がテーマの作品って、思い返すとたくさんありますね。
それだけ普遍的な主題だということで。

高校時代にこういう女の子と友達になりたかったなーと。
by nasujirou (2008-03-20 00:52) 

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